アメリカという国の学校という場所
夏美かをる

その金曜日の午後
いつものように黄色いスクールバスから降りてきた
娘達の笑顔を確認してから
思い切り抱き締める
「ねえ、ねえ、今日学校でこれを描いたんだよ」
私の腕を振り切る勢いで バックパックの中から
何やら取り出して見せ始める娘達 
小学三年生と一年生

道草しながらやっと家にたどり着き
ホットチョコレートを飲んで 一息ついたところで
用意していた話を始める

「ねえ、聞いて。
もしも、もしもね、バン、バン、バンって
花火みたいな音がしても
“何が起きてるのかな〜?”なんて思って
音がする方に行ってみては絶対にダメよ。
だってその音は銃の音かもしれないからね。
バンって音がしたら
近くにある何かの陰に
体を小さくして隠れなさい」

「銃ってなあに?」

「ガンだよ」

「ふ〜ん。ねえ、それはお母さんが側にいない時の話?」

「そうだよ。お母さんが近くにいたら
お母さんがあなた達を守ってあげるけれども
お母さんはいつもあなた達と一緒にはいられないでしょ。
たとえば、学校にいる時とか…」

そこまで言って、何かが胸に込み上げてきた

幼い娘達にこんな話をしなければならない現実
彼女達がいざという時に自身を守るために
こんな話しかできない現実

危険な精神異常者の手にも簡単に銃が渡ることを許している
社会の中で暮らしている現実

週が明けて
今朝も娘達は黄色いバスに乗って出掛けて行った
この恐ろしい国にありながら
施錠もされず
金属探知機も警備員も見当たらない
あまりにも無防備なその場所に
義務教育という名のもと
私の二人の娘達を委ねる

その小学校には
娘達の他に
六百九人の美しい子供達が通っている


自由詩 アメリカという国の学校という場所 Copyright 夏美かをる 2012-12-20 09:00:14
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