ひらがな
そらの珊瑚

ひらがな、が落ちてくるように
迷いながら雪が降ってくる
日本にちりぢりになった
あ、い
どれだけのあいの組み合わせが
あるのだろう

やがて
あ、と、い、は
溶け合って境界線をなくす
ただの透明の水に戻り
土の中で冬眠する

春になればそれらは芽吹き
ぬかるんだ田んぼで
こどもたちが
あ、をひろう
次は
い、をひろう
ひろいあつめて
無邪気に 
つみあげて 
それは
泥にまみれた 
自分のあいになる
母さんのあいになる
父さんのあいになる
一年生の教室で隣に座る子のあいになる
見も知らぬ
自分によく似ている
世界のどこかで
あえぎながら
あいを忘れてしまった人のあいになる
あいは降る場所を選ばない
たとえそこが沸騰した地獄であって
一瞬で蒸発してしまおうとも

ひらがなの五十音表が
あい、から始まり
小さな人差し指が線をなぞって覚えていくように
ふたたび
人はそこへ戻って始めることができる
不思議な記号が
そうして言葉になって満ちていく

あなたに拾ってほしいのです
温かい手のひらの上でほどかれて
あなたにしみこんでいくのです

たったひとつの直線を
気ままに切って重ねたり
元気に跳ねさせてみたり
止めてみたり
ゆったりとながしてみたり
時にはゆるやかに円を描いてみせて
ひらがなが成り立っている
だからどれも少し似ているので
あいは迷うことがあるけれど

空を見上げれば
とても易しいひらがなたちが降ってくるのです



自由詩 ひらがな Copyright そらの珊瑚 2012-12-20 08:35:53
notebook Home 戻る