曇りのち曇り
Giton
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古くなった里芋をぐつぐつと煮ていたら
きょうの空のような紅蓮の毛細血管が
鍋に浮いてきた。朝から暮れ始めている街の
気層はこもこもした灰のかたまりを日がな支え
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それでも雨はふらなかった。あるいていると膠質の淡いシャワーが
空からゆっくりと沈んできたがもちろん雨はふらない
あたまのなかもからだのなかもそのつめたい白い粉で
いっぱいだ。あるき過ぎてしまう…もどっていくとまた過ぎてしまう
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高い墻壁に岱赭色のつたがへばりついてちぢれている
きみがだれだかわすれてしまったがきっと昔会ったことがある
どうして通行人がこんなにだれもかれもわたくしにぶつかるのだ
記憶をたどりながら石造りのビルのへこみで冷たい風をやりすごしている
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人生に疲れたら障子のさんを磨いてみたまえ。この世界に生きて良かったと思うだろう
あさ電車に乗るたび涙が滲むんなら玉葱スプレーを用意してあげよう
ひとは忘れられても生きている
いつか明けない夜、街を見下ろす丘に立ったとき わたくしはきみを思い出す
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