僕を抜け出し
Lucy


はじめから僕は登場人物ではなく
舞台の上を見上げ
憧れるだけの観客で

まもなく幕は下りるというところまで来て
なぜか華やかなカーテンコール
僕が不在の僕の人生
始まることのなかった物語

僕は拍手を贈るんだ
長いこと僕を閉じ込めていた
人生と言う暗い独房
その中で
求め彷徨い
何かを探し
誰かになろうともがいていた

記録を残したかったのか
どこかへ到達したかったのか
それともこの手で
何かを創りたかったのか
あるいはただ誉められたかっただけなのか・・・

今 僕は僕を抜け出し
一人の抜け殻を
月の光にかざしてみる

からっぽで
きらきら透き通っていて
潰そうと思えば
指の間ですぐこなごなになりそうな
セロハンみたいな抜け殻なんだ

ついに誰にもなれなかった僕

だけどこうなってはじめて気づく
時代に疎外されようと
もてはやされようと
生まれたその日から僕は僕で
誰かの愛に満たされていたはず

空っぽな風が吹き抜けていく
抜け殻になってはじめて思う

もし僕が
たった今羽化したばかりの蝉なら
どんなに長い夜の底に置かれても
見えない羽が張り詰める微かな
鋭い緊張に全身の神経を震わせ
朝が来るのを
今度こそじっと待てるのに


自由詩 僕を抜け出し Copyright Lucy 2012-12-19 00:48:08
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