僕を抜け出し
Lucy
はじめから僕は登場人物ではなく
舞台の上を見上げ
憧れるだけの観客で
まもなく幕は下りるというところまで来て
なぜか華やかなカーテンコール
僕が不在の僕の人生
始まることのなかった物語
僕は拍手を贈るんだ
長いこと僕を閉じ込めていた
人生と言う暗い独房
その中で
求め彷徨い
何かを探し
誰かになろうともがいていた
記録を残したかったのか
どこかへ到達したかったのか
それともこの手で
何かを創りたかったのか
あるいはただ誉められたかっただけなのか・・・
今 僕は僕を抜け出し
一人の抜け殻を
月の光にかざしてみる
からっぽで
きらきら透き通っていて
潰そうと思えば
指の間ですぐこなごなになりそうな
セロハンみたいな抜け殻なんだ
ついに誰にもなれなかった僕
だけどこうなってはじめて気づく
時代に疎外されようと
もてはやされようと
生まれたその日から僕は僕で
誰かの愛に満たされていたはず
空っぽな風が吹き抜けていく
抜け殻になってはじめて思う
もし僕が
たった今羽化したばかりの蝉なら
どんなに長い夜の底に置かれても
見えない羽が張り詰める微かな
鋭い緊張に全身の神経を震わせ
朝が来るのを
今度こそじっと待てるのに