オマージュ Ⅲ
Giton

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その向こうにあるもの見えないもの
瞳をこらすとぼおっとなって
頭のおくがしんと痛くなる
見えても云いあらわすことのできないもの
云おうとするや頭の向こうがぎらっと光るもの
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開通したばかりの橋場線からひらりとおりて
あなたは鞍掛のほうへ歩き出す…
 ‘これがじつにいゝことだ
  どうしやうか考へてゐるひまに
  それが過ぎてくなるといふこと’
滅くなったわけではない見えなくなっただけなのだ
あなたとともに歩む あなたの背後でともに歩むもの
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うしろ振り向けば‘それ’はあなたといっしょに回りこむ
まっすぐに進んでゆけば《地平》もさきへと退いてゆく
だからあなたは後ろ向きに歩いてゆこうとする:
 ‘こんなせわしい心象の明滅をつらね
  すみやかなすみやかな万法ばんぽうてんのなかに
  小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が
  いかにも確かに継起するといふことが
  どんなに新鮮な奇蹟だらう’
あなたは‘奇蹟’のなかへと歩み入る derデア heiligeハイリゲ Punktプンクト──
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ひばりは心象のファンファーレ ラファソ ラファソ ラファソ ラファソ★
100年前あの襤褸を着た男に全幅のすがたを
あらわした秘儀がいままたはるか東方の
ひとりの阿修羅にひらく水底みなそこ
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セイレンの裸身の胸に瓔珞はゆすれ
‘うたつたりはしつたりはねあがつたり’
もはや眼を閉じることさえままならぬ
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眼の向こうにあるもの見えないもの
瞳をこらすとぼおっとなって
‘あたまはどての向ふに行く’
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★(注) B.:Sy.Nr.6 Fdur,Satz?,Takt 55-
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自由詩 オマージュ Ⅲ Copyright Giton 2012-12-17 05:25:16
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