オマージュ Ⅲ
Giton
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その向こうにあるもの見えないもの
瞳をこらすとぼおっとなって
頭のおくがしんと痛くなる
見えても云いあらわすことのできないもの
云おうとするや頭の向こうがぎらっと光るもの
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開通したばかりの橋場線からひらりとおりて
あなたは鞍掛のほうへ歩き出す…
‘これがじつにいゝことだ
どうしやうか考へてゐるひまに
それが過ぎて滅くなるといふこと’
滅くなったわけではない見えなくなっただけなのだ
あなたとともに歩む あなたの背後でともに歩むもの
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うしろ振り向けば‘それ’はあなたといっしょに回りこむ
まっすぐに進んでゆけば《地平》もさきへと退いてゆく
だからあなたは後ろ向きに歩いてゆこうとする:
‘こんなせわしい心象の明滅をつらね
すみやかなすみやかな万法流転のなかに
小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が
いかにも確かに継起するといふことが
どんなに新鮮な奇蹟だらう’
あなたは‘奇蹟’のなかへと歩み入る der heilige Punkt──
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ひばりは心象のファンファーレ ラファソ ラファソ ラファソ ラファソ★
100年前あの襤褸を着た男に全幅のすがたを
あらわした秘儀がいままたはるか東方の
ひとりの阿修羅にひらく水底
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セイレンの裸身の胸に瓔珞はゆすれ
‘うたつたりはしつたりはねあがつたり’
もはや眼を閉じることさえままならぬ
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眼の向こうにあるもの見えないもの
瞳をこらすとぼおっとなって
‘あたまはどての向ふに行く’
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★(注) B.:Sy.Nr.6 Fdur,Satz?,Takt 55-
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