色彩へのコラージュ
草野春心



 (fall)

  秋
  娘の胸に
  はじめての乳が溜まり
  銀杏の香り実る頃に
  心は夢と出会う  



 (shape)

  「長い廊下の向うから、一体の人体模型がし
  たしたと歩いてきます。」「風の匂いが、ち
  ょうど椰子の実のかたちにくりぬかれていて、
  そこだけがやけに……悲しかった」「知って
  いますか、あなたの」「本当の名前を?」「
  廊下は細く、企みのように細くなってゆきま
  した」「椰子の実のかたち」「あなたの、本
  当の名前を……」「



 (copy)

  濃い闇の中で
  遊戯のように繰り返される
  緑色光に濡れた
  蛇のぬけがら



 (gift)

  あなたに一冊の本をあげます
  あなたに紅茶の葉っぱをあげます
  あなたに真っ赤なリボンをあげます

  あなたに街はずれの美術館をあげます
  そこに佇む、ひろびろとした静寂をあげます
  言葉と、いかめしく変色してゆく歴史と
  あっけらかんとした忘却をあげます
  夏の日の涼しさをあげます
  冬の日の温もりもあげます
  わたしには多すぎる

  場所もしらないどこかのドアの
  古惚けたひとつの鍵を
  雨降りによく似合う
  長ぐつのようなさりげない歌を

  溢れる歓びを
  ほとばしる怒りを
  やりきれない矛盾を
  勇気を
  恥じらいを  
  あなたにあげます
  それから
  あなたにあげたすべてのものを
  焼きつくしてしまうような
  凄まじい炎を






自由詩 色彩へのコラージュ Copyright 草野春心 2012-12-16 22:09:06
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コラージュ×4!