路に記憶がある
殿岡秀秋

小路の角を曲がると
家並みの
屋根の傾きの下で
格子戸が眼をつむっている

晴れても明るくならない
印画の街
軒と軒とが接するように
建てこんでいる

植物は軒下におかれた
盆栽やプランターにあるだけ
小路を奥に進むと壁につきあたり
どこにも抜けることができない

小路の角まで戻り
駄菓子屋のショーケースに
ぼくの顔を映す
飴をくるむ包装紙にかざられる

その唇がかすかに動く
これからどの路を
どこへ向かって進めばいいのか
尋ねている

記憶の顔が眼を開く
やっとここまで来たんだね
これからは好きな路を
歩みなさい

見たことがある路の両側の
どこか懐かしい傾き
かくれんぼの鬼が
ぼくを見つけられないまま
帰ってしまったのを知らずに
隠れていた塀の裏で
夕暮れに上着をかけられる


自由詩 路に記憶がある Copyright 殿岡秀秋 2012-12-16 17:25:12
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