台所の防衛
オイタル

一週間ぶりの晴れ間に
花を買った
鉢植えの冬薔薇
台所のテーブルに
水を与えた

〈閉塞く冬となる〉

短い初冬の晴れ間をぬって
銃を買った
実弾百発合わせて二万のコルト
ちょっとした家の守りなら
お手ごろだ
軒の下に深く積もった雪に試し射ち
反動が涙のように胸まで伝わる

アメリカから銃の乱射事件の一報
被害者の大多数は子供だ
道徳の時間に「銃」の倫理も教えないとね
北朝鮮からミサイル発射の一報
コルトが何丁あれば
あの国に対抗できるかしら
日本海の海岸線に一億一斉に並んで
銃を向ければ
海からの風は痛そうだけれど

花の傍らに銃を置いて
少し眠った
紅茶にシナモンの香りを流して

目覚めたら出発する
アメリカでも
北朝鮮でもない
北陸でも
六ケ所村でもない
台所のテーブルの上の岩の砂漠で
ナイロン製の銃撃戦を敢行し
家族の全てに安堵の体温計をくわえさせるまで

〈君に見せむと取れば消につつ〉

靴下を履き替えて出発する
ジョンでも
ヨーコでもない
タクヤでも
アヤメでもない
すべての眠る子供たちの上に
ティッシュの雪を降り積もらせ
眠る地球の布団の中に
沸きたての湯のあふれる湯たんぽを
そっと送り届けるまで

晴れ間はやがて雨に変わり
雨はしきりに雪をさそう
夢か現か テロルかバラか
台所のテーブルから遠く離れたガスコンロの上で
ヤカンの蓋が しきりと踊っている


自由詩 台所の防衛 Copyright オイタル 2012-12-15 21:59:37
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