滅私方向
木屋 亞万

あの方を好きになったのに
あの方のことで頭が
いっぱいになるはずなのに
私は滅びていく

恋すればするほど空になる
どうしようもなく君を思うのに
あの方は私の心にいない
あの方がわからないし
あの方をわかりえない

私は滅びている
あのお方も入り込めないほどに
ひびが入り歪み枯れ果てている
歩けば転ぶからころす

滅しては私
あの方をみる

今まで私の中心に座していた
私が心を留守にして
宝物を失った宮殿は崩れ始め
子宮はなおも血を流し
月は今夜も雲に住む

鏡はいつまでたっても曇ったまま
化粧だけが上手になって
朝に綻びてもう寄る辺ない

香水の霧が立ち込めて
白粉のお城に隠れて
口紅の橋を跳ねれば
眉毛はいつも根無し草

私は恋をするほどに
心がいつも留守になる
溶けてなくなる氷の社
種の腐った果実の匂い

私滅びる
見ていられない
あの方に向ける
言葉もないわ


自由詩 滅私方向 Copyright 木屋 亞万 2012-12-15 18:08:09
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