美しき投票
オイタル

銀のジュラルミンケースに
細く口を開けて待ち構えるなにか

 じゃあ あたしから
 若いころのあの人と撮った写真
 大事にとっといたんだけど
 ね 白黒の いいでしょ 気に入ってんだ
 端がすこうし廃れてしまって
 でも選挙だし
 いいわ これ
 投票するわ

窓からの逆光に
人々は黒く床に影を流し
静かに群れをなす

 では ぼく
 秋の終わりに摘んでおいた
 白い花びら
 投票箱から栗色の
 良い香りが立ち上る

この傷口は 深く
世界につながると人はいうが

 私は紙切れ一枚
 川の端の
 ゆきの国からいただいた
 三十九と四十の一枚
 「とろうだね。」
 「そうですわ。」

ポケットのそこにへばりついた
埃だらけのレシート ちぎって
そっと その口に

選挙だよ みんな
選挙だ


自由詩 美しき投票 Copyright オイタル 2012-12-15 07:00:47
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