いい香りのするパンダ
まきしむ
いい香りのするパンダに乗って
街を闊歩
驚くよね
もうおっさんなんだから
でも、ほら花屋の前に佇んでいる君だって
後ろに乗っったっていいんだよ
雨上がりの路上は、いくらふさふさの足と言えど、少し歩きにくそうだ
ふうふうと、始終鼻息を鳴らしている
よーしよしとなでてやっても、
首を振るだけでうっとおしいみたい
公園に着きました
紳士淑女がデートしていますよ
困ったものですね
私といえば、そんなものと無縁なあまり
こんな酔狂な事に励むほかなにもすることがないというのに。憎い。憎い!
通り過ぎました
さて、どこに行きましょうか
海がいいですか?そうか
海にしような
もう大分寒いかもしれないけれど、海はいい
なにしろ景色が開ける
いい気持ちになる
お前も野生に帰ったつもりになるだろうが
海行きのバスはここでよかったでしょうか?
あーはいはい、ありがとうございます
しかしお前は乗れないね
ちょっと体が大きすぎるよ
どうしようか
俺バスに乗っていくからさ
お前歩いていく?
いや、そんなことしないよ
一緒に行こう
あ、バスが来た
よし、いこう、いくぞ、せーの、あ、
あれ、あ、あ、いいいいいいい
っああ!
よし、乗れた!乗れたな!
よくやったよ
よーしよしよし
乗れた乗れた
ふー、ふー
怖い人はいないみたいだ
大丈夫、俺たちの方が強そうだよ、
どこから見たってね
お年寄りの方々には申し訳ないけどさ
しかし
俺たちの町には
ほんとうになにもないなあ
俺とお前が出会った公園
そこだけだよ
俺が好きなのは
お前は窮屈そうだったから
俺が勝手に連れて帰ったけど
正直どうだったよ
ぶっちゃけ公園の方がよかったのか
六畳の木造建築じゃ
お前には窮屈だったよな
そう思うよ
今更、勝手だけどね
ついた
海だ
これが海なんだ
この海を見るために
俺たちは日がな町に繰り出し
石や花束を投げつけれたり
泥をかけられたりしたんだな
しかし、砂が気持ちいいか?
とても嬉しそうじゃないか
そんな顔見たことないぞ
ごめんな、いつも狭いとこに押し込んで
悪かった思ってるよ
おい、どこ行くんだよ
ちょっと待って、危ないって
まじで
ほんとやめて
足水に入ってるんじゃん
お前パンダだから
泳げないでしょ
ちょまてって
え?ほんとに
これほんとに
ああ
そうしてパンダは海の奥深くへと帰ってゆきました。あとには泡一つ残りませんでした。
群れからはぐれたかもめが遠くで鳴きました。