プロセス [フラッシュバック]
鈴置友也
懐中時計の竜頭をぬくと
(それはウィスキーボトル)
なかから水があふれてくる
振幅のはげしい針のうごきが
ふいに軽くスゥイングして
ひろがる液体に
手をかざす こぼれ落ちる しずくの糸。
軌跡のえがく文様は亀裂に
床である石膏は穿たれたうるしの膨張。
(みずおとの たえずひろがる 浸透圧)
うすい膜をさらにうすく 希薄に かぎりなく、
透明に そしてしみこみ 踞みこんで 見まもる
うるしの海 黄泉のさいはてへつらなる
膿へ。
セロファンの滴が ニードルの伸暢が
カリカリした形態の 寒天の粉を注入している
結晶化したセラミックにも及ばない
はてのない浸透圧 がセロファンに感染してゆく
ひらりしとりの透過性が
シャーレのなかで培養されると
ともにあふれかえる過去のにおいが
不均衡と不透明に混成されるものを媒介して
なめらかな亀裂を ざらざらする記憶を
しめった雨音の 過去をスライドさせる
二重照射された 三半規管の停滞。
(Okahasan, Okahasan, dockoj ichatano?)
耳殻からかすかにこぼれる幼い聲が
耳たぶの繊毛を撫でておちる。
上下に伸暢する身体 はげしい振幅に
水泳選手が
爪尖から頭頂へすばやい飛びこみをする。