象牙
草野春心



  今宵、風の
  滑るような冷気の端に
  一本の象牙が生えていて



  きみは両手で
  そっと包みこむ
  通り雨の過ぎたあと
  かなしさの残る街の片隅
  電話ボックスの白光の傍ら
  うらぶれた軽自動車を停めて



  それだけを
  ただ見つめている
  僕の
  目蓋がふたつ、不意に
  土嚢のように重くなってゆく    





自由詩 象牙 Copyright 草野春心 2012-12-09 23:05:12
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