夏八百屋
石田とわ
大通りを一本奥へはいった
ラーメン屋の先の三叉路の角っこに
その八百屋はあるんだ
狭い軒先に段ボールが並べられ
曲がったキュウリや
太さも大きさもまちまちな隠元が
ほうり込まれてる
段ボールの切れ端には
マジックでその安い値段を
大きく書いてあってさ
八百屋の女主人のおしゃべりは絶え間なく
そのごちゃごちゃした店で
育ったカボチャみたいなんだ
この前もちょっとピーマンを買いに行ったら
帰りにはなぜかその日採れたばかりという
キュウリを二本も買わされていた
売り物にならないいびつなトマトが
おまけでついたけどね
あの店の野菜たちがスーパーのそれより
おいしく感じられるのはえこひいきだろうか
色も形も見栄えはしない
けれどあの不揃い加減がたのしいんだ
一度あの八百屋に行ってみるといい
きっと手ぶらじゃ帰れない
三叉路の角っこの軒先の段ボールが目印さ
そこにはいびつでただしい夏がほうり込まれている