『生血』
あおい満月
わたしはまだ、
本当の血を流していない
わたしの足元から
見えない厚い雲が
ゆっくりと動く
雲と呼吸を合わせると
静かに痛む、
嘗てのわたしの部屋
大きな流血の予感がする
雲が日射しを遮りながら動く
太陽は雲を切断しようと切り込む
鍵の掛かった
わたしの部屋が開きはじめる
そのなかには誰もいないはずだ
*
誰もいないはずの部屋の
リビングの安楽椅子に
わたしが座っている
わたしは深く目を閉じたまま
赤い毛糸玉を抱いている
髪のうえに雪のような
白いものが積もっている
朝陽がさすと
椅子の上のわたしの唇から、
閉じている目から
ゆっくりと血が流れる
まだ目は開かない
**
翌朝、
拷問のような
下腹部の痛みで目が覚めた
湿り気を感じて
トイレに駆け込むと
真っ赤な経血が
わたしを待っていた
わたしのなかのわたしは、
また目覚めた
本当の血は、
生まれるための血だ
滅し合うためではない
人はなぜ
滅し合い、
それを愛と呼ぶのか