『生血』
あおい満月

わたしはまだ、
本当の血を流していない

わたしの足元から
見えない厚い雲が
ゆっくりと動く
雲と呼吸を合わせると
静かに痛む、
嘗てのわたしの部屋

大きな流血の予感がする
雲が日射しを遮りながら動く
太陽は雲を切断しようと切り込む
鍵の掛かった
わたしの部屋が開きはじめる
そのなかには誰もいないはずだ




誰もいないはずの部屋の
リビングの安楽椅子に
わたしが座っている
わたしは深く目を閉じたまま
赤い毛糸玉を抱いている

髪のうえに雪のような
白いものが積もっている
朝陽がさすと
椅子の上のわたしの唇から、
閉じている目から
ゆっくりと血が流れる
まだ目は開かない

**

翌朝、
拷問のような
下腹部の痛みで目が覚めた
湿り気を感じて
トイレに駆け込むと
真っ赤な経血が
わたしを待っていた

わたしのなかのわたしは、
また目覚めた
本当の血は、
生まれるための血だ
滅し合うためではない

人はなぜ
滅し合い、
それを愛と呼ぶのか


自由詩 『生血』 Copyright あおい満月 2012-12-04 20:49:11
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