「アパート」四歳の記憶
ドクダミ五十号

エントランスとか言うな

工業地帯にほど近い

どこか鉄の匂いのする町の

杉板貼りの二階建て

くもりガラスの引き戸

開ければ土間と廊下

左手に下駄箱あり

廊下のはじめ右には

二階に上がる階段がある

蹴上に板は張っていない

一間ほど進めば左に流しがある

くもりガラスの窓を台無しに

無骨な鉄の箱が廃材だろうか

縦に窓を遮る板にとめてある

硬貨を投入する口が銀色に強調されて

本体はくすんだふかみどり色で

リベットでとめられたアルミニュウムの

説明は溝なのだ

色入りの

廊下の突き当りには

お便所があり

当然の如くのアンモニア臭を

誰が置いたか牛乳瓶に造花

竹で編んだ四角い器には

所々に点としていろがある紙

縮のシャツの様な

廊下の右には四畳半への扉

並んでいる

畳は一間の窓から刺す陽で焼けて

壁は白いモルタルに色つきの繊維が窮屈

押し入れはあるがそれだけだ

裸電球が粗末な作りの傘の下

ソケットはコンセントの距離だけ

本来の目的を傘に果たすを妨げ

便利な折りたたみの膳は

つましさを壁の白に跡を残す

鎧の様な杉板張りのツマから

陶管の茶色は艷やかに鉛直で

コンクリート作りの行き着く所に落下する

ふみは部屋の番号を振ったオープンな箱に

下駄箱の上にある

となりは職工さんで

おかみさんとだんな

子供は三人

人生に疲れた結髪とほつれ毛

さらし粉とは無縁の割烹着

着色してはあるが粗末な買い物カゴ

茶色く丸いカスカスの玉で舗装された

鉄臭くどんよりとした空の

救いがあるようで無い

遠景に煙突と立ち昇るけむり

リアル・セピアな町と

二階建てアパート

幼く知らない四年の魂は

どうやら意図せずに

鼻孔の奥や

マナコの印画紙に

記憶として残そうとしたか

似た色と匂いがすると

うろたえる程に探してしまうのだ


自由詩 「アパート」四歳の記憶 Copyright ドクダミ五十号 2012-12-04 04:02:37
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