追慕とサルベージ
村正
泥のような感情を
いつまで押しつける
彼女の中に
何を残せたのか
それを知ってどうする
いつかのやりとりの中で
ギリギリで生きていた俺も
自分で手にかけてしまう
*
幸せになれるなら
去る覚悟だったはず
理性に振り回されていた
俺の確信は遅かった
間に合わなかった
安心していた
もう感情は俺の手の中にない
忘れないように乾く
*
遠い日に別れを拒んだ君が
フラッシュバックして
確かだったと思い込む
そんな無様を羽織っている
*
お決まりの言葉を君にはなつ
嘘くさい自分がいやで
本当にふさわしかった
言葉はみつからなかった
決まって頬にふれた
本気で言えていた日も
眠りについたあとの話だった
他に言うべきことがあっただろう
*
俺の信条は欺瞞だった
たいていの悪がいやで
たくさん君にも押し付けた
受け入れてくれていた
それに甘えきっていた
自分の中にあるものは
すべて見える気がしてた
俺の信条は、欺瞞だった
*
善い人になりたくて
正しい自分を繕った
困った人は助けたかった
俺はどこにいたんだ
祖母の家が流されていた間
テレビを蹴り飛ばしただけ
俺にはメシも布団もあった
善い人になりたかった
*
大抵はいつも胸を張れなかった
褒め言葉は疑った
蔑みは真に受けた
君の言葉だけは反芻した
たこができた頃には
左胸にすとんとおちていった
君との距離に
遠近感がなかった
*
感情が環状になっても
無駄になることはない
許し始めた頃から
爛れた体で進め
*
体温だけが確かだった
朝を迎えた日々は
なんだか恥ずかしくて
同じくらい嬉しかった
誰とでも一緒だろうか
忘れずに居られるだろうか
どこへ向かおう
落ちぶれやしないだろうか
*
二度と朝を迎えない
いつかそんな日が来る
選ばなくていい
今日じゃなくていい
憎しみは続かない
そして繰り返される
まだ歩けるさ
心配ない
*
元気でやってるのか
隣の人は君を大事にしてるのか
詩は書いているのか
どんな絵を描いているのか
*
あげられるすべてや
善くなると信じたすべては
ずいぶん前に渡し終えた
誇ってもいい気がした
*
いつかまたどこかで
話せる日が来るだろうか
どんな人になってようと
変わらずにいようと
誰より胸を張れた日に
笑い合って話せたら
伝えるときがくるだろうか
思い出になった頃に
ひとりじゃなかった話を
いつか話したい
そんな風におもえて
*
自分で貶めてしまった
そいつをようやく認めた
いらないものまで
引き上げてしまった、なあ
*
君はもう新しい生活の中
俺はどうかな
寄り道をしながら進もう
さあ、お前よ
手を貸してくれ