追慕とサルベージ
村正

泥のような感情を

いつまで押しつける

彼女の中に

何を残せたのか

それを知ってどうする

いつかのやりとりの中で

ギリギリで生きていた俺も

自分で手にかけてしまう





幸せになれるなら

去る覚悟だったはず

理性に振り回されていた

俺の確信は遅かった

間に合わなかった

安心していた

もう感情は俺の手の中にない

忘れないように乾く





遠い日に別れを拒んだ君が

フラッシュバックして

確かだったと思い込む

そんな無様を羽織っている





お決まりの言葉を君にはなつ

嘘くさい自分がいやで

本当にふさわしかった

言葉はみつからなかった

決まって頬にふれた

本気で言えていた日も

眠りについたあとの話だった

他に言うべきことがあっただろう





俺の信条は欺瞞だった

たいていの悪がいやで

たくさん君にも押し付けた

受け入れてくれていた

それに甘えきっていた

自分の中にあるものは

すべて見える気がしてた

俺の信条は、欺瞞だった





善い人になりたくて

正しい自分を繕った

困った人は助けたかった

俺はどこにいたんだ

祖母の家が流されていた間

テレビを蹴り飛ばしただけ

俺にはメシも布団もあった

善い人になりたかった





大抵はいつも胸を張れなかった

褒め言葉は疑った

蔑みは真に受けた

君の言葉だけは反芻した

たこができた頃には

左胸にすとんとおちていった

君との距離に

遠近感がなかった





感情が環状になっても

無駄になることはない

許し始めた頃から

爛れた体で進め





体温だけが確かだった

朝を迎えた日々は

なんだか恥ずかしくて

同じくらい嬉しかった

誰とでも一緒だろうか

忘れずに居られるだろうか

どこへ向かおう

落ちぶれやしないだろうか





二度と朝を迎えない

いつかそんな日が来る

選ばなくていい

今日じゃなくていい

憎しみは続かない

そして繰り返される

まだ歩けるさ

心配ない





元気でやってるのか

隣の人は君を大事にしてるのか

詩は書いているのか

どんな絵を描いているのか





あげられるすべてや

善くなると信じたすべては

ずいぶん前に渡し終えた

誇ってもいい気がした





いつかまたどこかで

話せる日が来るだろうか

どんな人になってようと

変わらずにいようと

誰より胸を張れた日に

笑い合って話せたら




伝えるときがくるだろうか

思い出になった頃に

ひとりじゃなかった話を

いつか話したい

そんな風におもえて





自分で貶めてしまった

そいつをようやく認めた

いらないものまで

引き上げてしまった、なあ





君はもう新しい生活の中

俺はどうかな

寄り道をしながら進もう

さあ、お前よ

手を貸してくれ


自由詩 追慕とサルベージ Copyright 村正 2012-12-04 03:57:45
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