雨の子
月乃助


冷たい
雨がふりだした
雨宿りする安らぎの軒は、どこにもなかった


若いものは 走りだし
きた道をもどり始める にぎやかな娘たちも
年老いたものは 天をあおぎ
荷を背負ったものは あきらめの 重い足取りをすすめる

どこかにする 天をののしる叫び

私は、もうぐっしょり濡れそぼり
雨を想う


 その旅のはじまり や 質量とか水の分子の組織
原子をつなぐ約束ごと
まだみぬ18番目の素粒子をかさねたり
それが、創成の意志をやどすものと確信したり


 赤い傘をさした少女が とおりすぎていく
ふりむいた 小さな子の
指差す先、、


「「 さしたらよいのに、


どうしてか どうしても 私は、それを自分の手にしていたことに 気づかない


 うれしくて
少女を抱きしめたくて 跪く
少女は、ちいさな手をさしのべ
私の ぐっしょり濡れたあたまを やさしくなでた


 行人の群れ
傘の花はなく
濡れそぼる誰もが、
手に 手に 傘を持っているというのに


「「 気づかないの?


 その子は、もうずいぶんと先を歩いていて、
ぼんやりと 霞むその背は、
水に流れた 私の姉らしかった


私のにぎりしめる 傘は、もうすでに 錆びがある





           *





 私は、その傘を
さすことが できたのだろうか。









自由詩 雨の子 Copyright 月乃助 2012-12-03 21:20:19
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