眇の金魚
高原漣

眉一つ動かさず殺す女神が飼っていた

眇の金魚がいる。

水銀めいて光を反射する鉢を住処に

血の河を泳ぎまわる金魚を飼っている

銀の炎ちらつかす死神めいた女

まっ黒い眼をした、ミシェルモルガンをなおも一つ暗くした

女がたてる靴の音が都会に沈む

しずかに屍は降り積もり

煉瓦を濡らすのは雨だけとは限らない

三度の出会いを超えて生き残るものはなく

潰れた目を奇妙にゆらす眇の金魚が

最期のときにおとずれる

囁くような耳鳴りに

唱和して

赤、が




「魚のえさ、ね」

都会の夜に波紋が音もなく拡がってゆく

そして女も暗くなっていって消えてゆく

眇の金魚だけが

降り積もる屍を喰らい血河を泳いでゆく


自由詩 眇の金魚 Copyright 高原漣 2012-12-02 22:25:22
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