『赤い快楽』
あおい満月

わたしはうまれるまえの
かたまりの内側に潜んでいた
ある日溶岩とともに かたまりが溶けて
わたしが流れ出た
海が生まれた
空には赤い夜の太陽が
花開きながら飛び散っていた

わたしは赤い快楽から
こうして生まれたことを忘れて
自転車で転んで擦りむいて
久々にわたしから咲き始めた彼に向かって号泣した
彼は生ぬるく
わたしの肩を包んだ
あれは、
流れる血潮への挨拶だったのか

今はわたしは
わたしから彼が流れても
泣きはしない
寧ろ舌先で
その体温を愛でる

わたしのなかで、
今でもたくさんの子どもが
赤い太陽の花火の下で
溶岩になって流れ出ているのだ
ひとつの破壊から
夥しい快楽が生まれる
わたしは指で掬って
だれの耳にも
予知しないことばを書き出す

生まれる前の記憶をしってる?

母親がわたしに訊ねる
わたしは記憶を手繰り寄せながら
赤い海のなかにいたよ、
と話す

赤い快楽の海のなかを
流れながらここに来たのだ
今でさえ
快楽の赤い太陽の夜は続いている


自由詩 『赤い快楽』 Copyright あおい満月 2012-12-02 15:23:54
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