大丈夫
もっぷ

いま時分には珍しい朝凪に
吸い寄せられるように
車を止めて
浜へ降りて行った

もう、母国に
呼ばれることのないカモメたちが
白を惜しまずに羽ばたいている
水面はきらきらとさやかに

わたしは
砂に気をつけながら少しだけ
波へ近づいてみる

手遅れになる前に経とうとする
あなたの時計のように
わたしはとても気をつけている

日、出ずる海の子守唄が耳に
親しいのは思い出のせい

泣きそうになった

潮の香が追いすがるようで
わたしはふいに怖くなり慌てて
車のキーを手のひらに感じ直して

隣のあなたの時計をそっと覗き込んでみる

冬の空高く白煙となった面影だけ
のあなたの横顔が
大丈夫

とわたしに告げた
そう、
大丈夫
わたしは生きてゆける
一人でも生きてゆける

大きな声で叫びたくなった


自由詩 大丈夫 Copyright もっぷ 2012-12-02 01:54:34
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