丘にいる兵隊
石川敬大




 かけおりてくる兵隊がいる
 指揮だけがあって四季のない顔のない
 丘のうえから
 いっせいに声があがる
 雲がわく


 あがる声には
 責任がないから自主性がない
 身体がないから表情がない
 むだな熱気と勢い
 それだけ
 丘のうえには緑にもえる草木がある
 個々の主権
 個々の感情
 犬の家族制度をないがしろにした
 王権による集団とその系統によって銃で隠蔽されている


 兵隊がくらす兵舎は丘のうえにある
 丘のうえで
 兵隊はヒゲをはやしている
 穴があいた靴下をはいてあきらめきっている


 丘は月の歴史である
 丘は弓なりにつづく四季のない国の四季である
 丘はひとの掌だ
 太陽だってうけとめている
 兵隊は
 ひとつの命令にしたがう
 数的人数になって黒いドットになる


 声もなく
 ホロつきのトラックの荷台にならんで座り
 隊列を組んだトラックが丘をくだってくる
 そうして
 民草と民主化を殺しに
 犬が逃げ惑う市街地にはいってゆく






自由詩 丘にいる兵隊 Copyright 石川敬大 2012-12-01 15:42:03
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