ひとつ積んでは
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僕は死んだので、火葬場へ行くことになった

思い出の品なんてものは無い
まだ観てない、まだ聴いてない、まだまだ遊んでない
遺言通り、部屋に積みっぱなしのないない尽くしを棺桶に詰めると
今度は僕を入れるスペースが無いという
仕方がないと僕をほったらかしにして
膨らんだ棺桶を車に載せ、葬儀屋は行ってしまった

僕はふいに息を吹き返して
部屋に残された、お気に入りの音楽を聴いたり、映画を観たりした
「やっぱり、いいな」
何度聴いただろう、何度観ただろう
けど、本当にそう思うんだ

しばらくして葬儀屋から棺桶が破裂したと電話があった
「これはあなたのか」
と、ゲームのタイトルを口にした
「憶えてないなあ」
「じゃあ違いますかね」
「いや、僕が選んだものだとしたら、きっと面白いですよ。それは間違いない」


自由詩 ひとつ積んでは Copyright id=5239 2012-11-29 01:41:57
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