褥焼き
月乃助


 男士たちが 
屏風をもってきた
眠る女の 枕元にさかさのそれは、
薄の天に 雁が地を飛び去っていく


 踏み絵さながら 鏡のおもてに裸足をのせる
足元をみつめれば むこうに
確かにもう一つの 逆立つ下界があった
あの世とは そんなものらしかった


 老婦との別れに 里人はつどう
たわわに生った実を 人によらず さしだす
果樹のような 人でした
私もまた、口にし 種を心にやどした
いま一つ ここより命が消えた


 通夜のさきは 褥焼きがのこされる
老婦の眠っていた寝具を 焼く
川原に運んだそれをするのは、守人の私のつとめという


 貧欲に 死の秘密がしりたくて
私は、そこに身をよこたえる
さめやらぬ 死者のぬくもりらしきものが残っている


 声をきけば
深山の川瀬が口をひらいた 
流れの往きつく先の 潮の味をしってみたいと


老婦の高笑い


 川は、海 は、一如
川の往きつく先は、海 おまえは、海の一部にしかすぎないと、


 別け隔てなど ありようもない
生も死もおなじ ひとつに違いないのですね
流されまいと執着し とどまろうとしようと
時は、ゆるさず


 使い古した布団に灯油をかけ 火をともす
死を 穢れと恐れるでなく 燃やす
それは、きっと老婦のからだのいちぶ
ともに旅たつ


 燃えさかる 炎の熱にやかれ
嘆きをすてる



白煙は、いつか谷あいをみたしていた 




 漂うのは、
山の気に染まり 森に憩う
それは、自由をえた魂らしかった

















自由詩 褥焼き Copyright 月乃助 2012-11-29 01:31:06
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