『すがたみ』
あおい満月
わたしには、
嫌いなものがある
それは自動ドアに映るわたしの姿だ
内股歩きの巨体が
いくら進んでも前に行かない
こんなような
梅雨の蒸し暑い空気のなかでは
半袖のわたしの腕や足には
いくつもの赤い目玉が犇めいている
わたしはいつも見られている
わたしはわたし中に見られているのだ
赤い目玉の声がうるさい
お前は異質だ
おまえはいしつだと
だからドアのなかには入れない
進んでも進まない
脂の塊
赤い目玉を滴らせながら
やがて辿り着いた
ドアが開く、
わたしは真っ二つに分断される
目玉がひとつ潰れた
わたしは盲になった
人々は、
何くわぬ顔で
書類を小脇に通り過ぎる
時計はあと二分で九時になる
異質なわたしは
その他大勢になって
朝の挨拶を交わす
二〇一二年六月二三日(土)