私が生んだ亀ちゃん
夏美かをる

私は亀ちゃんを生んだ

亀ちゃんとは本人の前では決して使わないあだ名

亀ちゃんは本当にゆっくり成長していく

初めて歯が生えたのは一歳三カ月
初めて歩いたのは一歳八カ月
二歳になっても殆ど言葉が出ないし
おむつが取れたのは五歳四カ月
体も弱くて病気がち

その亀ちゃん
水泳を習い初めて一年半経ったのに
まだ顔を水につけることさえ満足にできない
(正確には一度できるようになったのに
ある日鼻に思い切り水が入ってしまい
それがトラウマになって再びできなくなってしまった)
一緒に習い始めた妹は
もうクロールでスイスイ泳いでいるというのに!

グループレッスンではとてもついていけないので
亀ちゃんには専任の先生をつけている
おいおい、安くもない月謝を払っているんだぞ!
とイライラして
レッスン後髪の毛をゆすいでやる時に
シャワーのお湯を頭からぶっかけて
大声で泣かせてしまったこともある

そしたら次のレッスンから
「吐きそうだ!プールの中で吐いたら困るから休む」
と言い出すようになってしまったので
虐待もどきはもう二度とすまい!と反省した

その後も亀ちゃんは相変わらず顔を水につけようとしない
亀ちゃんは永遠に泳げないのだろうか…?
亀ちゃんのスイミングにこれ以上お金を掛けても無駄なのだろうか…?
旦那は言う
「亀ちゃんがおぼれることがあったら困るから泳げた方がいい」
でもさ、泳げないのなら水の深いところには行かない(行かせない)だろうし
たとえば車が海や川に落っこちて、泳いで助かる確率ってどのくらいよ?

母に電話してみる
「おかあさん、亀ちゃんがねぇ…」「亀ちゃんがねぇ…」
「あんた、亀ちゃんは生きているだけでいいと思いなさい」
一通りの話を聞いた後 母は決まってそう言う

亀ちゃんに訊いてみる
「スイミング辞めたい?」
「ううん、辞めたくない」
「そう、わかった!」

今日も亀ちゃんと妹を水泳教室に連れていく

妹の見事な泳ぎを見て
「わ〜、すごいね、上手だね!」
と手をたたいて喜んでいる亀ちゃん

そう、亀ちゃんはとってもいい子なんだよ〜♪
時々泣かされちゃう位にね!

そうだったね、おかあさん!
亀ちゃんについて心配なことは常に百個位はあるけれど
亀ちゃんがどうであっても、
亀ちゃんが生きていてくれさえすればいいんだったね!

亀ちゃんが海ガメじゃなくて 泳げない陸ガメであっても
この際どっちでもいいや!
亀ちゃんが、
そのままの亀ちゃんが
そうやって目の前で笑ってくれてたら それでいい!


自由詩 私が生んだ亀ちゃん Copyright 夏美かをる 2012-11-27 03:24:56
notebook Home 戻る