見上げて
wako

ポツリポツリと降り始めた雨が
アスファルトを濡らしていく
駆け出せ!
と、脳は命ずるけれど
その場から足が動かない
屋根を見上げて動けない

小さな爪がすべるのか
濡れた瓦の上で子猫が固まっている
必死の形相で鳴きながら
細い足をすべらせながら

通りかかった人間は
ネコか
と、見過ごせない
アスファルトに叩きつけられる前に
両手で受けようと
濡れながら見上げる

子猫の声は激しさを増し
親猫の声も激しさを増し
雨はだんだん強くなる

   あんただけじゃないのよ
   棟のむこうにも
   軒の下にも
   待ってるのよ
   グズグズせずにいらっしゃい!

親猫は苛立ち
子猫はすくむ

   もぉ〜
   仕方ないわねぇ
   大きな子が甘えて

しばらく鳴き合ったあと
親猫は首をくわえて
重すぎる子猫を引きずっていった
棟のむこうに消える前に
一瞥を投げつけて

雨に濡れながら家路を急ぐ

ネコの会話が身に染む夕暮れ時


自由詩 見上げて Copyright wako 2012-11-25 14:00:22
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