南房総ポエトリカル・アンソロジー  その2
あおば

 2008年7月19日の土曜日 千葉県安房郡丸山町、現在は町村合併で南房総市となってしまったが、そこの白子地区にあるローズマリー公園での詩朗読公演「南房総ポエトリカル・アンソロジー」朗読詩人団コトバナに出掛けた。
「UK−JAPAN2008公認のイベント」
英国文学の朗読ライブ
後援 駐日英国大使館



南三原駅前広場

 小さな駅前広場には早くも夏の光が溢れていて、向こう側ではタクシーが乗客を待っているので、トヨタのコンフォートかニッサンのクルーか分別の付かぬ儘に黒い小型車へと急ぎ足で近づき行き先を告げてタクシーに乗り込む。中年の運転手さんにもローズマリー公園はよく知られており、えたりおうという感じで車を発車させる。しかし、よく客は運ぶが、中に入ったことはないとのこと。紺屋の白袴、地元の人ほど関心を示さないようだが、クルマはすぐに広々とした田圃を突っ切った小道をゆく。よい眺めに歩いていきたくなったが、運転手さん、今どき歩いて行ったら着く頃には汗でぐしゃぐしゃになりますよと言う。20分ほど前にはラジオで梅雨明け宣言を聞いたとも言う。なるほど空も明るすぎるほど明るく拡がっている。梅雨明けと聞いた途端暑さを感じて、窓を開けて好いですかと尋ねたところ、好いけど今冷房中ですと返事。再び大通りに出て曲がったところがローズマリー公園だった。エアコンが効く前に到着。帰途に備え名刺を頂いてタクシーを降りる。
 ローズマリー公園は花の公園で、手入れが入念になされていて、絵に描いたような花壇が整って美しい。特に今日みたいによく晴れていると花の色が楽しそうで、永遠性すら感じるほどであった。少し暑く感じたので帽子を被り公園を一巡してから、イングランド風の建物が散見するシェクスピア・カントリーパークへの門を潜る。
http://rosemary-park.jp/?page_id=7


ローズマリー公園 シェクスピア・カントリーパーク

 近世イングランド風の大型木造家屋が建ち並ぶテーマパークで、博物館とは言えないが、その時代を感じさせてくれる風情が漂っていて、シェクスピアの生家の復元家屋内の蝋人形も当時の生活を垣間見させてくれ、明るい現代の照明が用いられていて部屋の隅々まで観察できた。当時の照明は樹脂蝋燭だと思うので、その暗さは想像するしかないが、蝋人形が住む太い柱の頑丈な造りの部屋の中の調度や寝台、寝具などを眺めると当時の日本と比べると建物の観念がかなり違うようだ。
 外には17世紀初めの風車を復元したものが偉容を放つ。水車に比べると遙かに回転のコントロールに気を遣う風車を使いこなしていた西欧の技術に驚いてしまう。この時代の人たちはノコギリを使うことを恐れないのかと思うばかりの太い角材が西洋人の腕力を誇示するようで、圧倒され、しばらく眺めていた。
 公演の行われるホールも太い部材で構成されており、当時の建築費はどの程度かかったのだろうかとそんなことばかり考えて、彼の地では過疎化老化している現在でも十分な補修がなされているとするとそれは凄い経済力であるとも思い、作っては壊すを常とする我が風土との相違を知る。
 シェクスピィア・カントリー・パークを一巡したところのカフェで昼食後、裏山のベンチに腰掛けてニイニイゼミの声を聞きながら朗読公演の開場時刻までぼんやりしていた。頭上方には伸び盛りの檜の枝が空に向かって広がり夏を謳歌していて外はかなり暑かったようで、歩くときの足下が少し落ち着かないが、室内にいるのは惜しい気がする。

 ローズマリー公園の一角、 シェクスピア・カントリパーク内のシアターホール、頑丈な木造教会風 のホールにはゆったりとした古風な木製の椅子に座布団も敷いてあり非常に座り心地がよい。 しかし、プログラムを見ると、もの凄く格調が高そうで、英語に弱い私は疲労困憊するかと思ったのだが・・、

1.
Shinsakuさん、濃緑の縞の装束を着けてのアコステックギター演奏で始まり、イングランド民謡Greensleevsや、今や世界の民謡化したビートルスのLet It Beなどが連綿と続くイングランドの歴史を示すようで、色と音の面から、近世イングランドに身体が馴染んでゆくようだった。
なおShinsakuさんの短いギター演奏は、朗読者が代わる度に行われ、幕間の恐ろしい緊張を和らげ、会場の雰囲気を穏やかにリセットする効果も演出していた 。

2.
Takakoさん、たっぷりと丈の長い白のエプロンを着けて、19世紀の自然詩人、ワーズワスの詩を闊達に読む。リズムと韻とがワーズワス節を利かすようで、厳かな中にも気持ちが浮いてきて心地よい。
「Intimation of Immortality from Recollections of Early Childfood」
<幼少期の回想から受ける魂不滅の啓示>

参考英文
http://www.online-literature.com/wordsworth/995/

3.山内緋呂子さん、クリスチナ・ロセッティ、ウィリアム・ブレイクの略詩を巧みに読む。山内さんと作者がうまく融け込んで分からなくなっている。山内ファンには堪えられない楽しさも醸し出て、原作者の詩を読んでみようという気にさせられる。久しぶりに玲瓏な澄んだ空気の感覚を呼び覚ましてくれた。

4.児玉あゆみさん、ロミエとジュリエット、シュイクスピア原作をあゆみさん化しての絶唱。ジュリエットの置かれた冷厳な状況と現在という生暖かい生け簀で泳がされている我らの状況を児玉さんの声がダイレクトにつなげてくれて、自由に対する己の不寛容性をしみじみと痛感させられる。

5.桑原拓也さん、HBDのかけ声連発でホールの空気を自由にしたところで、
クマのプーさん、A.A.ミルン原作を桑原さん式に元気良く朗読する。
プークマは子供のくせに、自己意識が強すぎて、素直だけどめんどうくさい、近くにいたら厄介な奴だと思っていたが、はたして桑原さんの朗読だとその正体が見事に現れて、ダメなクマというクリーストファーロビンの優しい声が聞こえてくる、楽しい朗読であった。
 即席で舞台に上げられたクリストファーロビン役、カメダさん(聴衆)もすぐノリノリになって朗読がもたらす楽しさの威力を思い知る。

6.稀月真皓さん、シェクスピアのソネット集より、オリジナル英詩と稀月さん和訳を朗読。稀月さんの朗読は極めて現代的だから、シェクスピアが同時代人のようにも感じてしまう。シェクスピアの強靱な精神力は稀月さんにもダイレクトに伝わっていると感じさせられた。

以上皆さん、原作を自分のものとして表現されていて、私のように原作に疎いものにも現在につながるエッセンスを感じさせてもらえ、楽しく堪能できた。舞台に合わせた装束も現在のノイズをカットし、改めて舞台衣装の威力を知る。
BGMとして効果音楽を使用されていた方も居られ、朗読とうまく融合し、みごとに詩の成分化を果たしていた。
 公園の緑の光と空気が出演者にも大きな影響を与えたようで溌剌として楽しい朗読であった。

 16時過ぎ、定刻に終演、外はかなり涼しくなっていて歩くのに丁度よい。30分くらいで南三原駅にはたどり着けるはずで、ゆっくりと駅に向かって歩きだしたが、ひとつ道を間違えたようで、そのうち本来の道に合流するだろうと楽観していたが、遠くに見えた目標の子安神社からも離れて、橋のない川沿いを歩いて行くうちに完全に違う方向に向かっているが、戻るには遠くに離れすぎてもうどうしようもない。




 内房線の線路の下を潜り、小さな密集した村落を抜け、村はずれの草の茂った小道を黙々と歩いて、崖沿いの険しい畦道を抜け、漸くのことで国道128号線と410号線の交差地点、安馬谷にたどり着く。ここまでで一時間近く費やしていて、かなりからだが火照っている。歩き始めは涼しいと思ったが、湿った畦道を延々と歩いたので足も重くなっている。しかしこれからは道を間違えることもないだろうからと気を取り直して、ひっきりなしに車の通る国道の歩道を広々とした景色を楽しみながら40分ほど歩きやっと南三原の駅に着く。レンタル自転車の看板が目に入る。歩くには少し広すぎる地域のようだ。





国道128号線沿いの丸山地区の標識




国道128号線からの遠望、ローズマリー公園と太平洋


 帰途は上下線どちらでも構わないので先に到着する外房線周りの電車を待って乗車したが、しばらくして居眠りをしてしまい気がついたら千葉駅近くで乗車時間が極めて短く感じた。



車窓から 安房鴨川付近の海岸



散文(批評随筆小説等) 南房総ポエトリカル・アンソロジー  その2 Copyright あおば 2012-11-24 14:04:22
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