世界が私のものだったころ
由比良 倖

When the world is mine...

火曜日は街の背中の見える丘でアルマゲドンをひとり待つ予定


タンポポを折った帰りは電柱を倒すべきという義務の問題


相対性理論を正しく知るために熱いストーブと君が必要


それを知ったら多分私は死んでもいいの夏の朝でも秋の午後でも


あなただけ見ている前で残酷な悪戯をする(僕を終わらせて)


居場所無く街を彷徨うリラックマ「部屋をください」「丸洗い可能?」


教室でグレープフルーツ食った奴怒らないから死んでください


飛べないの記憶ごと羽を消されたのでも記憶だけ不十分なの


反応が遅いのくらい知ってるよでも出来るなら無反応でいたい


なにかしら生きてるんだけどなにかしら泣きそうになる倍の薬を飲む


素で変な奴とか思われたく無いし飲んだことにして死ぬほど冷めてる


もうここにいられない でもこれだけ書いときたくってさ
「Hello, I love you.」


立ちくらみを死と仮定して遺言に付記する言葉「誰も責めないで」


指切りの君の小指が永遠で僕にはもう未来はいらない


君がいて君がいなくてそれだけがずっと気がかり平和なんかより


負の数が右心房に溜まっててテロを起こすのに理由が要らない


恋じゃないなんて言い訳捨てちゃえよ恋の定義も知らないくせに


モノクロのフィルムに色を塗りたくるこの頃夢がよく燃えるんだ


パンプキン・シードが鳥の餌なんてなんか私に相応しくない?


西瓜割りなんてしたこと無いけれど割れた西瓜の味は知ってる


目の前にある円形に入ろうか外にいようかずっと迷ってる


特別な日に特別はいらない平凡な日に血を流していたい


ハロー宇宙 手紙書くからその間だけ永遠に美しくいてよ


せん妄的に夜をひびく場所を(さらさら)と呼ぼう 古代の約束


今一瞬ヴィシャスが死んだ気がしたよあやうくあと追うところだったよ


二分間息を止めてよその間僕のことだけ考えていてよ


錠剤とコーラと煙草一カートンこれだけあれば四日は不死身


ぜんざいを甘いものだと知らなくてでも黒いのは知っていました


絵の具にはない黒なんだポケモンを全部言えたら教えてあげる


囁けばどこが鳴るのか知っている心が壊れる音にも慣れる


ありふれたものたちが灰になっていくみんな冷たい星になる、綺麗


コーヒーの残りに吐いたカミソリにおはようを言う僕じゃない何か


息をしてないことにふと安堵して愛と呼ばれたそれを踏みにじる


毒性のある薔薇色が瞼から溢れ出すまで君と紡ぐ死


極端に寒い季節には神経を抜き去った方が早いよ、むしろ


孤独死が哀しいくらいに合うような夜を東に、海のあなたへ


あのひとが捨てた何人目であろうと死ぬ順番を決めるのは神?


フルサトは空の向こうです知ってます隕石を効果的に避ける方法


あなたにはありふれたことだろうけどそれは私の日常語じゃない


生前葬ごっこをしよう僕が屍体で君がオルガンそれから天使


生のまま乾く魚に蝋燭を三本立てて独り泣く練習


分裂病すれすれだなんて誉められちゃ笑わなきゃよねこんな雨だから


ねえ私あなたに虐待されるのは自虐だから責められないのよ


夕方を左手首に編み込んで時の子供に猫を飼わせに


ベクターさんヒューマノイドの準備ですあと手術中は自傷禁止です


夢の声世界の終わりのサントラを小さくかけて冷たい眠りを


黒い花あなたの喉にときどき咲くね鳥にはそれが見えないらしい


メール便届けば明日明後日明明後日くらいの未来は信じてられる


テトリスで千年に一度出るって星のブロックハートのブロック


崖したに住めだってそれは素敵なこと潰されたいね二人いっしょに


夜にしか理解できない化学式 夢の中で焼いたラブレター


いい加減埋めたもの掘り返そうよあのカプセルたしか錆びるよ?


短歌 世界が私のものだったころ Copyright 由比良 倖 2012-11-15 21:19:51
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