『共喰い』
あおい満月

買い物袋を持つ
袖口から覗く彼女の腕には
野犬に噛まれたような夥しい赤い痕がある
ぼくの腕にも、
同じような痕が犇めいている

彼女は買い物袋から
赤い牛ばら肉を取り出して
今晩のメニューを考える

ぼくはいつも肉ははね除ける
死んだ肉は食べたくない
生きた血肉が欲しいのだ

彼女の血潮
彼女の熱
彼女の弾力

毎晩、
ぼくは彼女の肉体に喰らいつく
彼女の胸や肩から滲み出る赤いあたたかな海に恍惚する
彼女もぼくに喰らいつく

本当の性交とは
薔薇のように美しいものではない
共に肉を熱を喰らい合うこと
これがぼくらのかたちだ

ぼくは喰う、
彼女の夥しい過去も
未来さえも、
喰らってしまいたい

もっと、もっと、
喰らいつけ、
暗闇の感触のなかで
ぼくは彼女に言う

彼女の脳は
誰とどこで何をしているのかさえ解らなくなるほど
血まみれの恍惚に溺れているだろう
ぼくは喰われることに微かな勝利を覚えながら
朧月を追いかける

朝、
散乱した部屋と
血にまみれたシーツに生臭を心地よく感じながら
無傷な一日を始める




                   二〇一二年六月七日(木)


自由詩 『共喰い』 Copyright あおい満月 2012-11-15 21:19:32
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