宝石
小鳥遊儚

口に含んだルビーを
少し、見せて
彼女は深い眠りへと向かった。
天蓋から垂れたベールの外に立ち尽くし、
私は窓から夜を見る。

月はあった。

もはや天体の月までもが、
彼女の言うままになるようだった。

自分以外の何もかもが、
彼女を深く愛しているようだ。

私はルビーが気になった。
一センチほどの赤い透明の石は飲み込まれたのかどうか、
確かめなければならないと思った。
しかし喉が動くところを見なかったので、
石は今も彼女の舌の上にあるように思う。
濡れていて、温められているだろう。

彼女は眠っているのだろうか。
私は動かない彼女の体を見た。
髪からつま先まで、淡いものに包まれている。
あれはなんだろう。彼女を包む、淡い層のようなもの。

あの光の層によって、私は彼女を世界を別にしている。
あの淡い光の膜が、彼女を生身にしないのだ。

夜よ、私の心を読まないで欲しい。
ただ側に居て、仕えているだけの男だと信じさせておくれ。

私はベールに分け入った。
唇を押し開き赤い石を取り出した。

月が見ていた。
私は自分の口を開け、石の味を確かめた。

夜よ。静まれ。
私は顔を熱くしてそこを立ち去った。

部屋の外の腰掛けに座り、動悸を堪えた。

口から石を出し、手のひらに乗せて眺めた。
人でなしになってゆく。壊れ始める音が聞こえる。
彼女の笑い声が聞こえる。


自由詩 宝石 Copyright 小鳥遊儚 2012-11-14 13:31:12
notebook Home 戻る