コーヒーによる世界の捕え直しのためのエスキース(習作)
N.K.

朝、職場の一日の初めに同僚たちが
コーヒーを啜っている一角には
充填しそこなった活力が
辺りに漂い出している

それに与りたいと
自分もカップにコーヒーを注ぐ
一日の仕事をやっつけるために
錆びついた頭と身体に燃料を注ぐ

注ぎそこなった褐色の記憶を辿ると
その初めての出会いはたぶん
小学校、五、六年の頃だったか

その情景はマラソン大会で
横っ腹を押さえて走って
何とかたどり着いた
折り返し地点にいた先生は
「ほれ、コーヒー コーヒー」
と自分に声をかけてくれていた

その数日前に
その頃太り気味で
長距離が苦手であった自分は
初めてコーヒーを飲んだのだと
おそらく夜更かしもしたのだと
得意気に伝えていたのだろう
インスタントでミルクを入れて
砂糖もたんまり入れて
精いっぱい背伸びをして

目の前のゲゼルシャフトの器に注がれた
覚醒作用を
目的的にごくりと飲み込むと
もうミルクも砂糖も入れないコーヒーの
苦味が鼻に抜けていく

抜けていく夢は何かを伝えようとするのか
この頃同じ夢ばかり見ている気がする
折り返し地点はもう過ぎたのか
折り返し地点はとうに過ぎたのか

胃へ補給されたコーヒーが
寡黙に戻り自分の背中を押し始める
だから今日の一日を走り始める


自由詩 コーヒーによる世界の捕え直しのためのエスキース(習作) Copyright N.K. 2012-11-13 22:18:18
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