不整脈絡
木屋 亞万

素麺はすいすい泳ぐ箸などにすくわれるとはつゆとも知らず

うつくしくやさしいひとをひとりだけわたしのそばにおいてください

虫の鳴く声がキィキィ単調に響いてさして美しく無く

今までに積み上げてきた人生がいびつなまま傾いできている

閉ざされた空気を燃やし尽くしたら爆発を待つbackdraft

詩のための雨が降るなり死ぬために部屋を飛び出す遠い屋上

絵に描いた餅は餅ではないけれど餅より価値を持つこともある

川に歌ながし流れて次の日にゃ一文字たりとも残らないさ

セックスの後に罪悪感を持つよくあることさ(童貞だけど←)

JKは常識的に考えて女子高生のことだと思う

かろうじて形を持ったプリンから柔らかすぎる中心を削ぐ

今まさにプロポーズするカップルのテーブルクロスを引いて逃げよう?

いっそもう毎朝君が立つ駅の点字ブロックになってしまおう

かくれんぼしていた恋慕が顔を出す君の気配がにじむ日常

黒黒とかたいスーツに守られた弱いところに触ってみたい

くびれては固い曲線黒髪とふくらはぎからヒールを鳴らす

首筋の逃げ遅れた毛すくいあげ結われた髪に戻してあげる

コーチンのチンコちんちん運賃のウンチちんちんうんちんちん

飛行機が飛ぶかと紛う轟音が掃除機として迫るうたた寝

神様の鼻面取って引き回す女の足の指の感触

優しいと信じた花に侵入を許して柔い花咲く手首

あの人が入るお風呂になりたくてお湯を身体に貯めて待ってる

雨が降る僕が死ぬのがわかるのか高身長は首が吊れない

プチトマトぽろりと落とすように今こぼれ落ちては転がる命

足裏をひらひら見せて踊るよなピアノの音が響く石室

君はもう完全に「お〜い」されている「お茶ですか?」ええ濃い味です

大学の図書館にいる幽霊と書庫で密会する午前四時

浮遊する霊になっても屈むとき見える谷間を見るのやめない

俺だって銃さえあれば歯を磨くように死ぬことだってできるさ

DKとPKをするJKがPK実にOK
「DK(ディーケー)とPK(ピーケー)をするJK(ジェーケー)がPK(ぱんつくいこむ)実にOK(オーケー)」と読みます

若者がまた若者を押し出して繁華街ごと違う顔する

持続せぬインターネット的価値になりたい泡の言葉また消え

金縛り金のなる木も金玉も金にはならず金糸雀となく

果てしない宇宙終わりのない世界なのに私は死んでしまうね

眠る前あんなに幸せそうだった昼寝の目覚めがだるい理由は?

真っ暗な道を歩けば人生を引き返すのだ死後の世界へ

雪うさぎ優しく殺してくれるならそれも悪くはないかきた風

ストレスとレスリングするレストランシュガーレスとはアンビバレンス

ディスクにはサディスティックなディスプレイディスティニーとはこのディスタンス

スコアレスドローの恋をぶら下げて誰もしらない朝五時のバス

脳内がお花畑で僕はもうどうしようもなく臭い生き物

吐いてすぐ賞味期限がくるような言葉ばかりで嫌になります

天高く雲遠くなる距離感に急によそよそしくなる世界

ストローで毒薬を飲む死ぬ前に流す涙は声にならない

タナトスに犯されニュクスに包まれてヒュプノスに落ち息ができない

ヘルメスが私をさらい奈落まで連れてゆくのだハデスの兜

つややかな女の人の腕はもう吊り革掴むだけで芸術

匂い立つ朝焼けの中ぷつぷつと泡立つホットケーキが甘い

立つもののない草原を歩くとき地を這う光草さえ隠す

田園の揺れる稲穂が聞いている友を刈り取る僕の鼻歌

スキップをするスリッパがスリップをするスリットのスキャンダラスさ

恋人がいないどころか人間を信じられないままでまた冬

風呂で寝るたびにスープになるような気がしてうなる追い焚きの音

やらかくてあったかいもの恋しくて羽毛布団に埋もれてムフフ

起きているのに「目覚めよ」とか言っちゃう哲学の道を歩けば僕も

内臓がないとおぼしきシルエットそんな身体に憧れはせぬ


短歌 不整脈絡 Copyright 木屋 亞万 2012-11-11 13:38:01
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