不思議ちゃん無双
しもつき七





そんな事実まみれの話をしないで。


朝、光のふりそそぐ首都圏に溶けだしたチョコレートのせいで、つ
づいていく肥満児の行進。破綻した都市計画が描くメープルシロッ
プ、キャラメルポップコーン、吐きそうな甘い臭いのなかを、それ
ぞれ似合いの制服がわたっている。



狂っています。高層ビルだけかろうじて機関としての意味を保った
ままその巨体を聳えさせていたんだけど、膨張した重役たちが会議
室を圧迫して、それはいつか理科の授業でみた魚の解剖チック、


なんかもう、だめだった。破滅。だれもがその夕焼けっぽいことば
について考えはじめたとき、信仰とかが流行る。いつだってそう。
乳歯が抜けるときみたいなぐらぐらの気持ちを、祈ることで救われ
たい。みんなそうだった。思いはひとつ。きみの血は何色で、なに
を信仰し、どこへいくのか。週刊誌のあおりが攻撃的。


わたし、あなたを、どうでもよく思ってる。



戦場って名前がついた教室の中で、骨をぶつけあい肉をかぶりあい、
そうして破壊、愛。目障りになびいてる緑色のカーテンを切りとる。
6×6の正方形。既存の空にそれでも構築しろと、先生は叱った。
新しい世界を。誰も見たことのない未来を。



そんな事実まみれの話をしないで。授業にもどります。


まな板の上でのたうつ実験台。刃を宛てるとぎりぎりまで血のつま
っているのがわかる。満月みたいね。このまま力を込めてやったら、
とろとろ液体をこぼすはず。そのときこそわたしは強い愛で。



これは器官、光をめざす器官。わかりますか?



黒板消しをたたきながら先生、なにもみえないよ。窓。肥満児の行
進は信号を無視して、横断歩道を通過していった。夢とは? つま
り、未来とは? 問われていよいよわからなくなる。包丁を握りし
めたままわたしは制服のカッターシャツが血色に染まっていくのを、
明るい気持ちで待っていた。



甘い臭い。焼き直しの未来。


頭の悪さがなによりの、愛で、わたしの武器でした。さよなら。



自由詩 不思議ちゃん無双 Copyright しもつき七 2012-11-10 20:31:52
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