柿の木
草野春心



  秋の途中
  枯れたような空の下に
  一本の柿の木が侘しげに立っていて
  きみがそれを見上げている
  もう、少し皺のついてしまった
  グレーのコートに身を包んで
  甘みと渋さを曖昧に孕んだ
  橙色の果実は穏やかな風に揺れ
  けれどもけっして
  きみの手に落ちてくることはない



  昨日は強い雨が降った
  銀の骨の折れたビニール傘が
  惨めな犬みたいに草むらで死んでいる
  赤いベンチは冷たく湿っているから
  ぼくたちは座ることなく
  その柿の木を見上げつづける




  きみの眼は青空を映す
  永遠は少しずつ遠くなる
  雲の流れにそって、ゆっくりと
  そしてくすんでいってしまう  
  穏やかな風に
  透明な光の薄皮は剥がれて
  きみの唇にそっと被さる
  永遠は
  遠くなる
  僕のそばで
  健やかにうしなわれてゆく





自由詩 柿の木 Copyright 草野春心 2012-11-10 16:26:49
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