実験室    です。
木屋 亞万

試験管を試験官の尻に差し込みフラスコをステテコに押し込んで足のところを縛ります
塩酸を凄惨に撒き散らし人体模型を靭帯がもげるまで捻じ伏せます
BTB溶液をBLTバーガに流し込み胃液で溶かします
ミョウバンを液体絆創膏に混ぜて昨晩と明晩を繋ぎます
駒込ピペットを始めてとする細々したものを砕いた燃料ペレットをガスバーナーで燃やします
瓦斯を瓦礫と読む馬鹿もろともアルカリ性の灰にします
「であるからして」でアルカリに賛成である中学生の中性的な態度を思い出します
なぜ黒いのかわからない机上では星くずのように粉末が張り付いて取れません
椅子の足のゴムが緩んでどうにも不安定なままで紙の上で粉末を測るたびに
机に溢していくので意味が無い気がして仕方ありません
塩酸は絶えず腐乱臭とフランス詩集の愛の子で
いつ誰が再現しても同じ結果がでることが鉄則なのに
3年前と同じように試験管を挿入した試験官は逝かなかったね
丸底フラスコは持ちようによっては凶器で
割れたガラス管がいくつもごみ箱に捨てられています
水銀塗れの温度計と中和しては捨てられていく液と天井へつながる換気スペースと密室
白衣の中のセーターの中にはブラジャーに包まれた乳房があって皮膚を押し上げる乳腺と
冬の乾燥した空気を受けて乾きがちな白い肌に帯電する静電気と指が
反応しないように手の平から大胆に触れる必要があります
心配をよそに否応無く乳頭と指先は幾度と無く通電します
アルコールランプを火もろともに飲み干して内臓が炎症反応を繰り返しながら
米神からあふれ出すパンの匂いに耐え切れず受精卵は分裂し精子は減数分裂をします
心臓が燃えるときに出る色があなたの本当の色だからよく見ておくことよと言っておいて
先に水晶体が燃えてしまったら何も見えやしないけれど酸素に満ちた血は確かに赤かったよね
卵巣をハンドルにして君を操縦したけれど脳だけが昇天してしまって
わたしはいつまで経っても融点にも沸点にも到達しないまま笑点に落ち込んで引き笑い
たまに行き過ぎるすりガラスの向こうの黒い影は聞き耳を立てながら
常時行われている情事の電磁誘導と力と右ねじの法則と右に曲がった彼の陰茎について
上下に動く黒板にチョークで数式として記録していく黒板消しがないので失敗は許されません
time waits for no oneと黒板に記されたどこかの実験室では時間遡行に成功した少女と失敗をしでかした未来人と
タイムパラドクスを理解しない世界の作者と細かいところにばかりに目がいく陰湿な視聴者がいました
ガリレオの温度計を俺のガリガリの尻に差し込んでってお前ら相変わらず尻が好きだな
と英語で語り合うの聴く窓の外の耳は日本語とドイツ語に通じた医学生で
乱れたボールペン字でカルテにカテーテルの可能性についてメモしている
恥ずかしげに顔を隠している宵の明星の剥製の皮を剥いだら発泡スチロールで
腐った内容物のガラス容器をすべて片付けてしまったらホルマリンの漬物だったのだとこっぴどくしかられます
感染した陰茎と貫通した院生と教授と実験室と実験棟と終わりの見えない言葉の羅列です
十月十日と書いて朝   です


自由詩 実験室    です。 Copyright 木屋 亞万 2012-11-10 15:45:00
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