空あります
草野大悟

トンボになって飛んでいた。
桜の木もすっかり葉を落とすころ。
トンボの翅はなにも思考せずに
ただ
トンボのこれからを ひたすら羽ばたいていた。

大きなビルの大きな木陰で
すこしばかりの休息をとっていると
いきなり
漱石が顔を出して
「門」とか「それから」とか
説教をしだしたから
鬱陶しくなって
また
飛ぶことにした。

川の上をとんでいると
大きな岩の上にノボリが見えたので
下降してそれを見ると
「空あります」
そう書かれていた。

だれが空を商っているのか
おおいに興味があったので
しばらくの間、いいや、ほとんど一週間
同じ所でホバーリングしていた。

もう諦めかけていた日
のっそりと
「空」が顔をだした。

「空あります」
ぼくは、そのノボリを買うことにした。


自由詩 空あります Copyright 草野大悟 2012-11-09 21:29:55
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