ABEGG
しもつき七



きみのだいじなピアノがあって
叩けば壊れる鍵盤と、たたかなければ止まる音楽


調律したての
うつくしい音色が始まり粒になって外に雪が降る
夕焼けが結晶にぶちあたりながら
きらきら光を溢していた



ドアベルが鳴れば
誠実なきみは手を止めるだろう
それならわたしは無実の隣人だって殺しにいく


半音上げて

景色がかわって
窓辺を飾るカーテンもちがって
いつのまにか砂に埋もれてしまった足
月齢を数えるうち、とっくに浸水していた



訪ねてきた隣人に
手をかけながら待っているのは
氷に刃をあてたような冷たさと硬質
大きな動物の息を間近に感じる
なまぬるさと高湿



ねえ
時間はよく
砂に喩えられるけれど
わたしたちの時間も水気を含んだ砂が口いっぱい
昔に読んだあの小説と似ているね
わたしもいつかきみにとって
純文学みたくなれるといい
ありふれていたい
幸福がいい



きみのだいじなピアノを
ひとつ壊す
なにもかも楽譜になってしまって
伝えたいいくつものことが還元されている



自由詩 ABEGG Copyright しもつき七 2012-11-08 21:01:24
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