ただの回想
HAL

ぼくはあの頃 きみに恋をしていた
それで遠回しだけどアプローチしていた
きみがぼくの存在に気づいてくれるかと

でもまさかぼくの親友とつきあい始めるとはね
神様はなぜかいつもぼくに冷たい
なぜきみにぼくの想いが通じなかったんだろう

そう言えば昔の女友達に言われたことがある
ぼくはいつも外堀を埋めていてその間に
本丸を奪われるタイプだと

どうやらその分析はあたっているみたいだ
でもあの頃は色んなこともあったね
きみに惚れたことも含めて

読むべき本は
マルクスとエンゲルス共著の《共産党宣言》
高野悦子の《二十歳の原点》
高橋和己の《悲の器》や毛沢東の《毛沢東語録》
安部公房の《箱男》や埴谷雄高の《死靈》
大江健三郎の『見るまえに跳べ』

また色んなこともあった
サルトルが自著《嘔吐》を否定した五月革命
最後は北が勝った《ベトナム戦争》
結局は機動隊がバリケードを排除し《安田講堂陥落》
総括として同志のリンチ殺人が起こった《浅間山荘事件》
超法規的処置として田宮 高麿をはじめとする赤軍派グループの
北朝鮮亡命を認めた《よど号ハイジャック事件》
フランスデモで野次も届き火炎瓶が投げられるけど
いつも逃げやすい4列の右隅か左隅にいてスクラムを組んでいた《菅直人》
マイルスからモード奏法を学んだ《コルトレーンの夭折》
そして日本中が浮かれ踊った翌年の《大阪万博》

でもただの回想に過ぎないけれど
敵と味方がはっきりしていた時代

聖書のルカによる福音書 6章27節から38節の
《汝の敵を愛せよ》は何に於いても敵がいなくなると
味方側が確実に腐敗していくのを指し示すことだけれど
セクト間どうしではじまった近親憎悪の残虐な殺し合いは
まさに敵が見つからなくなっての結末だったと

ただ いまは想うんだ
ぼくらの頃のように《世界同時革命》などは
嗤えるほどに間違った幻想であったのは認めるけれど
いまのぬる湯に漬かっている若者たちは
いつか愚かではあるけれどもぼくらのような回想を
想い起こすことはあるのだろうかと

例え不正解でも愚かであってもノスタルジアを覚えないことは幸福だろうかとも


自由詩 ただの回想 Copyright HAL 2012-11-08 15:43:09
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