『切断』
あおい満月

こんな夢を見た
わたしはぼたぼたと
血を滴らせながら
部屋中を歩き回っている
わたしには、
左手がないのだ
鋭い刃物ですぱんと切られ
血が止まらない

母親はいつものように
居間でラジオを聴きながらお茶を啜っている

お母さん、
あたしの左手知らない?

母は見向きもせずに
押し入れに全部ぶちこんだわよ、
という

すぐさま押し入れを開けると
そこには夥しい数の左手が
こぼれんばかりに溢れている
どれもみんなわたしのものだが、
みんな違うものばかり

赤や青や黒のマニキュアの指をもつ手や
赤い蛇のタトゥーを施した手、
不思議なことに
どれも血にまみれていない
切られたわたしの左手には
薬指に指輪をしている

流れ続ける血、
目眩を起こす脳髄
わたしの手は何処にあるのだ
半狂乱で掻き分けるそれらの中から
ころんと音を立て
何かが落ちた
それは埃にまみれた
血に濡れたわたしの左手
銀の指輪だけが
微かに光っている
わたしは安堵に
気絶する


目を覚ますと
シーツに血の痕が滲んでいた
昨夜わたしは、
剃刀で体毛を剃ったのだ
そのときに左手首に傷をつけた
血は止まらなかった

あろうことか、
母親も指に怪我をしていた
大根を輪切りにしたとき
左人差し指を切ったのだと
捨てられた大根の皮に
赤黒い血が滲んでいた

わたしはいつか
切り落とされる



自由詩 『切断』 Copyright あおい満月 2012-11-07 19:02:16
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