消息
そらの珊瑚

消えた家族のその後は誰も知らない
あのあたりの地主だったという 長男が
次々とこさえた借金を返済するために
土地を売り飛ばし とうとう最後は自宅まで
手放したらしい

跡地にはマンションが建つ 子供の
笑い声 それとも悲鳴か
風にゆれる洗濯物 ベランダを彩り
家族ごとの生活が在る (あやうく) 
同じ間取り 同じ窓 同じ玄関ベル 同じポスト 
違うのはそこへ取り付けられた部屋番号 
仕切られた壁によって隠されている 隣人の
真実の営みを知ることなく 

人は 
ある日突然
あとかたもなく消えてしまえ、る、ものなのかもしれない 
手がかりさえ ひきつれて
ねえ、あなた、それはそんなに難しいことではなかったんでしょう  
ひとつの息があとかたもなく消えていく
黒い鳥が ついばんでいるのは 誰の消息か
夜になれば そこも更地になる


自由詩 消息 Copyright そらの珊瑚 2012-11-07 15:32:32
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