秋を見つめてみませんか 三篇 (想起させるものに、忠実に)
乾 加津也
街で
首を竦めてぼくはひとり歩いていたのですが。
日暮れ色で賑わう通りでは
うっかりしていると
さっさと擦れ違ってしまいます
だぶだぶな外套(オーバー)に身をつつみ
壁のような背中を丸めて歩く性急(せっかち)な秋に。
秋
いったいに秋といふ奴は!
空壜から右手を振って夏にさよならをする孤独(ひとり)者
スプーンいっぱいに盛った足音を傾けながら
「まったくわたしの実在のありかたによっては、」
といふ怪盗。
いったいに秋といふ奴は!
寒のはじめに時計塔を見あげて梯子をかける
昇るつもりで降りている
とき刻みのアヴェニューを
(背後に纏わるやはらかな宇宙の襞を意識しながら)
「よほどわたしの熱情の深さは、」
といふ怪盗。
そして外灯掃除の
じぶんの務めを怠って珈琲など沸かして
「やはりわたしの出方次第によっては、」
といふ暢気者。
いったいに秋といふ奴は!
落ち葉となって
流れるように落ちてきましたわたしのために少しそこを空けてくれませんか。
雨でもないのに降っている山峡の息吹にさらしたようなベエジュ。
吹きあげる秋にわざとしがみついてみたあなたがこんなにも冷たい表情(かお)でいたとは。
時間(とき)はすでに終わってしまったようですこれからはなんと呼べばいいのだろう。
もういちどみてみたいさわってみたい感じてみたい落日の焼けたかなしみ。