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とりかご
なにか大切なことを
忘れているかのような
朝、
街の住人たちは
みんなどこかへ出かけていった
揮発するアルコール
除菌できない幽霊ばかりが
隠れている
(白く清潔な街並み)
二度寝をするために
目覚まし時計を先走らせて
(何事にも
準備が必要です、
と あなたは告げた)
揮発するアルコール
おそらく
二度目覚めるために
先走ってしまった
薬箱のなかにうずくまる
わたしは
挙手し
汲みあげられた
そこで眠りは途絶えた
細胞膜に
くるまれた裸のうえに
紙切れを降らせる
当然ながら
これは虚構で
しかし紛れもなくほんとう
かもしれなくて
炎上するアルコール
二つの海が混在していた
蒸発する海
蒸発しない海
(蒸発できない
の 誤りでもあった)
わたしは
薬箱のなか
死んでいるのですか
生きているのですか
(断絶
を ください
あなたの言葉を信じるならば
接合しているのは
胸部ではない
背部だった
さかしまに
引きずり落とされるように
力を抜いて
ここはあなたの街ですか
住人はどこへ消えたのですか
坂道を転がっていくラジウム
はじめから
準備をして おくべきでしたか
二度寝するために
一度の目覚めを棄てるのですか)
ありがとう
この眸に点る色素
青白い肌のさざめき
発話を止めてしまわない限り
果てのない猛毒をあなたはくれた
わたしがわたしであるということ
わたしはあなたに抗えない
わたしがわたしであるということ
対話は初めから終結しており
わたしはあなたの指し示す
指から漏れるラジウムでした
ありがとう
産んでくれてありがとう
死なせてくれないでありがとうあなた
わたしは今日も吐血した
紛れもなくこの
あたたかな容器から零れおちた水よ
拒むことのできない要請
嘘をつくたびに増殖する星
発光するラジウム
握り締めた拳からだってほら
瑞々しい血が垂れてしまう
促されたちいさな敗北も
まるで薬物の浮遊みたいに
嘔吐/ハレーション
ありがとう
わたしは鉛だった
残念ながらあなたよりも
ずっと鉛の魚だった
発話するラジウム
もう
この街には
人がいない
背中に貼りついた
あなただけが
世界の
質量
わたしは
都合よく忘れ
捏造する
(緒のみどりご)
正常に動作しない手が
幽霊を摘み
口に運ぶ 、
目の前で
二つの世界が
揺れています
(麻薬の
まぼろしですか)
半分がわたしで
半分があなただとしたら
語るために
尽くした言葉を
半分に
引き裂いて
噴きだす
羊水
は
(わたしのものですか
あなたの
ものですか)
海を遊泳する背鰭
揺らすたび
あなたの声がして
発光するラジウムは
なだらかに絶頂を迎える
(嘔吐、
あるいはハレーション)