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葉leaf
幼いころの幸福な季節に帰りたいと あの人とうまく行っていた頃に帰りたいと 先生方に守られていた頃に帰りたいと それらすべての過去はもう死んだのだと 絶望的に死んだのだと なぜ諦められないのか 過去は共同体の一部であっても もう空気中に散乱した でも僕として生き続けるのは淋しい
戦場で敵の兵士を殺しました と詩で書いても 死ぬのは虚構の兵士だけ だが本当は自分の中の何かを殺しているし 自分の中の何かは死んでいる 例えばそれは 午前の冷たい光にあふれた山岳の紅葉の記憶かもしれないし 夢で見た自分を追いかけてくる怪物かもしれない そして未来の自分も殺している
まず幸福をゆるし 次は殺人をゆるした そして笑顔をゆるし さらには権力をゆるした それはすべて、すべてを緩すため 幸福の発熱に理性を与えくつろがせ 殺人の甚大な余波に文脈を与えくつろがせ 笑顔の与えすぎな余剰を削ってくつろがせ 権力の硬直した監視から身を隠しくつろがせた
大気に微小な氷の粒が混じったかのような秋の日陰で、庭木から剪定された大量の枝を風呂で焚けるサイズに折ったり切ったりして集める。長い灰色の木の枝の二点を両手でもって、ジーパンの膝にあてがって思いっきり折る。バチッという音と共に木端が飛び枝が折れる。折れた衝撃は肩に伝わり神経を痛める
僕は君と出会って世界が全てわかった気持ちになった 君は無限の海で移ろいゆき汲みつくせない存在だった だがそれはつまりは「僕」の殻が「僕と君」の殻に変態しただけ 僕と君、二人の対のエゴイズム 僕はその先へ行くために君をまた一人の別の人間として 殻の外側に降り注ぐ雨として捉えなければ
ハローワークの建物は医療機関のようだ。玄関から室内に入ると、端末で求人情報を検索している人たちがそれぞれの椅子の高さでずらりと三列に並び、仕切りで隔てられた相談窓口の列にも人が並ぶ。相談の順番待ちの人たちがソファーに腰を下ろし、次から次へと人が出入りしている。失業という病の治療。
太陽が俺をさえぎり続けた 光と形と熱すべてが俺をさえぎった なぜおれは復讐してはならないのか 俺を陥れた人々社会 すべてに死を与えることは月も許さない そこで俺は復讐を諦め太陽の内側に入った 太陽の使者として人々に光を与えた そしてある時気づく この権力こそが実は復讐だったのだと
夕暮れのひと時、真夏が帰ってくる。西の空が橙色に焼け、照り返しが厳しくなるのだ。労働は速やかに汗に変換される。風が涼やかで、リンゴの実が眠たげに揺れる。少し離れたところでは鳥除けの反射テープが赤銀に閃く。気温も下がり風景の彩度も下がると電燈が点き、キャッチボールをする人たちがいる
木造りの簡素な椅子に座り、一輪車の上に積まれた枝豆の株を、一つずつ取り上げ、枝分かれした茎を外側にはがしながら豆をとる。クルミの木陰で、日の斑模様が豆の山を彩る。日が照れば暑くなり、日が陰ると途端に涼しくなる。突如風が吹きだし、木々がざわめくと同時に日の斑模様が揺れる。豆をとる。
母に促されて空を見ると飛行機が飛んでいる。小さくゆっくり進む飛行機の姿を認めて初めて、飛行機のエンジン音が遠く鳴り響いていたことに気付く。私は左手にプラスティック製の赤橙色のピンを持つと、それを反射シートの端にあてがい、右手のハンマーで地面に打ち込む。父の乗用草刈り機の音が響く。