時代精神
すみたに
新聞を広げてぼくは思う
毎朝毎朝、これだけ世界の大事に
向き合うことが出来る人々が
どうしてなにも行動を起こせないのかと、
中国で反日デモが起きたからって
韓国が従軍慰安婦問題を騒いだからって、
尖閣諸島がどうしたって、
竹島にイ・ミョンバクがきたって、
ソマリアで飢饉が発生したって、
ハイチでコレラが蔓延したときだって、
ルワンダで紛争が勃発したときだって、
イラクへ貧困層が次々と出征したって、
どうせ出勤の時間が迫っているから
その新聞は便所の中で読むんだろう
われ思う、新聞を読み、
ゆえにわれあり、便所の上に。そうやって
こんな国に生きることも押しつけている
こんな時代を生きることも押しつけている
こんな教育をうけることも押しつけている
こんな血と肉をもつことも押しつけている
そう、ぼくはあほだ、こどもだ
クソガキだ。それは認める、事実だから。
けれど、事実をすべて認めるわけでない、
押しつけられた事実は受け入れらない!
信じがたいことが毎日毎日起きている
新聞を読むだけでは分からないさ、
テレビを見たって伝わらないさ、
インターネットじゃ信憑性もないさ、
戦争で子を失くした母の肩をみたこともない
空爆機の迫ってくる恐怖も体験してない
銃声一つホンモノを聞いたことがないんだ、
だからたしかな敵を知ったこともないんだ。
けれど、だからなんだっていうんだ、
ここに事実として書かれている信じがたいことを、
ぼくは盲目的に信じるわけいはいかないんだ
だから、これは事実なのかぼくは大人に問う。
「そんなこともしらないのか!」
大人は勝手に怒っているがいい、
「新聞を読め、書いてあるぞ」
大人は勝手に笑っているがいい、
そして早速新聞を広げてぼくは思う
毎朝毎朝、これだけ世界の大事に
向き合うことが出来る大人が
どうしてなにも行動を起こせないのかと
※
もうじき大人になるんだって覚悟する
ぼくは恐ろしくて潰れてしまいそうだ
毎日毎日こんな大事と向き合って、
社会で生活しなければならないなんて、
けれど大人には時代を受け入れない権利も
押しつけられた事実を否定する権利もある
こどもばかりが被害者のこの時代でも
大人も被害者になる権利があるんだろう
ぼくは時代のために生まれてきたわけではない
ぼくは時代とは離れて生きていたい
ニートたちはいう、毎日が日曜日だと
だがぼくは言おう、毎日が血の日曜日だと。
戦場と日常に区別が無くなったのは
アメリカや核ミサイルのせいなのか?
違うそれだけでない! 敵はなにかわからない、
けれど漠然と答える、それは時代精神の申し子だと!
新聞テレビインターネットが毎日報じる、
世界中、血と涙は、石油と情報とともに流れ続けていると、
もしもこのことを当然のものだと思うならば、
そのひとは時代精神の申し子だし、ぼくは信じないのだ。
そして疑うために引き受けなければならない。
世界は不幸にみちていて、ものじたいで、感じきれなくて、
抱え切れるようなものではないだろう、
けれど世界とともに時代に抗いたいのだ。
ぼくは時代のために生きたいとは思わない
ぼくは時代と離れて生きていたい
紛争の時代 ぼくは紛争に加担したくない
テロリズムの時代 ぼくはテロに加担したくない
ぼくは時代のために生きたいとは思わない
ぼくは時代と離れて生きていたい
農薬漬けの時代 ぼくは有機野菜を食べたい
外食産業の時代 ぼくは手作りで食事したい
ぼくは時代のために生きたいとは思わない
ぼくは時代と離れて生きていたい
消費社会の時代 ぼくは生産を推し進めたい
娯楽歓楽の時代 ぼくは芸術だけを愛したい
ぼくは時代のために生きたいとは思わない
ぼくは時代と離れて生きていたい
黙りこんだ時代 ぼくは静かに歌い続けたい
踏みにじる時代 ぼくは涙を流して抵抗していたい
※
新聞を広げてぼくは思う
毎朝毎朝、これだけ世界の大事に
向き合うことが出来る人々が
どうしてなにも行動を起こせないのかと、
巨大地震が起きたからって、
原発が爆発したからって、
新たな巨大地震が起きそうだからって、
次なる原発事故が起きそうだからって、
アメリカとロシアがどれだけ核ミサイルを保有していたって、
チェルノブイリやスリーマイルで事故がおきたって、
沖縄で少女が強姦されたって、
戦闘機が空をマッハで駆け抜けるのが日常になるなんて、
どうせ野球中継の時間が迫っているから
握っているのはスポーツ新聞だろう
われ思う、巨人は日ハムに勝つと
ゆえにわれあり、東京ドームに。
理不尽な暴力に流された涙をみたこともない
飢えの忍びよる恐怖も体験してない
ウォール街一つ行ったことがないんだ、
だからたしかな敵を知ったこともないんだ。
なにもしらないから不安に満ちている
例えば東京で誰かが誰かの命を狙い、
夜道で潜んでいるかもしれないことさえ
ぼくは知らない、ぼくは不安で仕方ない。
顔は知っているけれど素性も知らない政治家を
信じられるほどぼくは純粋ではないし、
その政治家が何を考えているかなんて、
ぼくにはなにも解らない、ぼくは不安に満ちている。
毎日飲んではいるけれど、この水道水が安全だと
信じられるほどぼくは純粋ではないし、
この水が一体何を含んでいるかなんて、
ぼくはなにも知らない、ぼくは不安に満ちている、
日常的にならされて、何も感じなくなったら、
それはもう戦場で働く兵士を指揮する、
安全地帯の幹部同然、こどもたちは訓練が足りない、
時間が圧倒的に足りない、何も感じないためには。
新聞を広げてぼくはようやく理解した
毎朝毎朝、これだけ世界の平和を
願い信じ続けているからこそ人々は
なにも行動を起こさないでいられるのだと
そう、ぼくはあほだ、こどもだ
クソガキだ。それは認める、事実だから。
けれど、ただのあほではありたくない、
ぼくは疑うことを知っているあほでありたいんだ!
彼らは時代の申し子なんだ、いまだ生まれたままの申し子なんだ
ぼくは彼らを信じない、時代精神に祈りも願いもしない
ぼくはもうじき大人にならねばならない、そのため敵を知らねばならない
けれどもぼくはあほだからまだしらない、そして不安で満ちている。