花団地 (かだんち
《81》柴田望

花団地 (かだんち)





花団地 では

お隣とうちの間には

透きとおる壁 いちまい

光も音もつつぬけ

あいさつしたり

ちょっと荷物を預かるときも便利でした



花団地 では

花や野菜を作るのが常で

越してきたばかりの妻も

お隣さんに教えてもらい

子どもたちは雑草を抜いた

トマトやお芋や獅子唐を分けて頂き

子どもたちはおじきした

どうかお気になさらないで

うちも食べてもらって助かっているの



花団地 では

春、花の種子が交響曲のように飛び交い

ベランダじゅう、絨毯や畳まで

棟全体が 花畑 になってしまい

とにかく陽あたりも良かった

うちの子のはしゃぎ声が響き渡り

いいのよ、お互い様だから、と笑って

お隣さんはお菓子をくれた



花団地 では

大きな津波にのまれたので

建物は瓦礫になってしまった

だが、あの 透きとおる美しい壁 は

もともと目には見えないので

決して朽ちることがない

生きのこった人たちは小学校の体育館で

だれもが壁のないお隣どうし寝泊りしている

津波は あっ、という一瞬の出来事で

うちの家族とお隣は

ぜんぜん気づかなかったので

決して荒らされることのない

花畑 で今日もみんな笑っています





2012-10-29  【81】


自由詩 花団地 (かだんち Copyright 《81》柴田望 2012-11-04 21:37:32
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