その一人の為に。
元親 ミッド

“あなたの詩は、なんというか
 詩人の書いた詩ではなくて
 詩人になりたい人が書いた詩だ――。”

と、黒づくめのその人は言った。



“かたくるしい詩だね。”

とだけ愛嬌たっぷりのモテ男が言った。



“イイネを押すほどでもないんだよね。キミの詩は。”

と飲み仲間の男が言った。



“見せて。”

といった女は、感想は何も述べずにふふんと笑った。



誰のこころにも届かないのかもしれない。



そう思うと
一人、宇宙の彼方にでも放り出されて
上もない
下もない
前も後ろも、右も左もない
そんな寒くて暗いところに
浮いているような

そんな気分になった。



詩だと思って書いているけど
もしかするとこれは詩でもなんでもない
ただの落書きではなかろうか

そう思えてきて

どうにもこうにも歩くべき道が
見えなくなってしまった。



たった一人でもいい

もしも、誰かが
“あなたのうたは、結構好きよ”と
云ってくれて
そうして読んでくれていたとしたら

今、僕は、その一人の為に
詩を書くことができるだろう。


散文(批評随筆小説等) その一人の為に。 Copyright 元親 ミッド 2012-11-04 16:46:01
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