境界B
緋月 衣瑠香

いなくなったあの子
背中を向ける細い体
人工的な色をのせた唇は動かない

2012年10月30日 満月
かぼちゃ色の光が浮かぶ
ハローウィンにはフライング

あの子と私は同い年
闇色スカートを翻しては
若葉茂る京都を歩いた
私たちは15歳だった

あの子の眉は山を描き谷を描く
なだらかなそれが変化する
その瞬間
世界はほんの少し震えていた

2009年11月1日 満月
色の抜けた光が照らす
あの子は天国にフライング

あいつがどこかで笑っている
誰かに貰ったお菓子をつまんでいる
けれどもあいつはわからない
誰もあいつはわからない

あの子は「名前」を守れなかった
授かった願い事と反してしまった
誰も知らないあいつのせいで

2009年10月30日 覚えていない
その夜のことは何も覚えていない
あの子は電車にフライング

「あの子はあの日の月みたいに欠けてしまった」
そんなことはない
だっていつだって月は丸いままだ
陰りはいつか終わる
あの子だって
いつかそうなったかもしれないのに
私の心を分け与えていたら
あの子は丸いままだったのかもしれない

3つ年下のあの子へ
こんにちは
私は20歳になりました
どうか私に赤い林檎をくださいな


自由詩 境界B Copyright 緋月 衣瑠香 2012-11-02 16:04:13
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