漂着物。
元親 ミッド

その男は、孤独から目をそらして
刺激的なことや、快楽的なことばかりを追いかけて
空虚を笑いで満たそうとしてきた。



さみしそうなパルフェタムール。
冷めきったこころを麻痺させては
...そうして、自分は前向きだと思い込むことで
どうにか日々を過ごしていた。



10月の海には人けはなくて
あれほど鬱陶しいと手をかざした日差しも
すっかり弱々しくなっていた。



潮風は強く吹き付けるけれど
冷めた分、潮の香りもまた弱かった。
ただ、波だけは、あの夏の日の倍ほどはあろうか
高く押し寄せては、白く泡立って弾け、
嫌がる砂浜をなでまわしていた。



ふと見ると、砂浜には、
片方だけのビーチサンダルがぽつんとあった。
もう片方は、どこだろう?
辺りを見まわすが、
あるのは砂浜に打ち上げられた
名も知らぬおびただしい貝殻と
いくつかの霞んだガラスの破片、
乳白色のイカの軟骨、それにつぶれたゼリーだけだった。



沖に目をやると
遠くに小さくタンカーが浮いている。
きっと、あのタンカーが
誰も知らない遠い国へと
あの夏の思い出たちをも運び去ってしまうのだろう。



この10月の海に、独り取り残されてしまった男は
どうしょうもなく
ただどうしょうもなく
立ち尽くしていた。



海風が髪をもみくちゃにしても
立ち尽くしていた。



もしかすると動けなかったのかもしれない。
目をそらし続け、逃げてきた分だけ
寂しさは、大きな塊となって
まとめて10月の海岸に漂着した。


自由詩 漂着物。 Copyright 元親 ミッド 2012-11-02 11:23:21
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